買主により不動産売買取引から排除された媒介会社の媒介行為に基づく報酬の請求が認容された事例


東京地裁 2016年8月10日判決

買主により不動産売買取引から排除された媒介会社の
媒介行為に基づく報酬の請求が認容された事例

【ケース】
 平成25年6月6日、買主Yは不動産会社Xの事務所を訪れ、宅地建物取引事業者Aが指定流通機構に登録したマンション(以下「本物件」という。)を内見後、「私は、本物件を3380万円にてXの仲介で購入の申込みをいたします」と記載した購入申込書をXに交付しました。Xは、Aに同申込書をFAXし、翌日、持参しました。

 同月7日、インターネットで、Aと直接に契約すると手数料を要しないことを知ったYは、Xの事務所を訪れ、本物件の媒介手数料を省略したい旨を申し述べて、購入申込書に係る取引を解消するよう求めました。Xは、Aに本物件の購入を取りやめる旨の連絡をしました。

 2日後、YはA事務所を訪れ、本物件の購入を申し込み、その後、Aの仲介で売買契約を締結し、残金決済を行いました。また、Aは指定流通機構への本物件登録を抹消しました。

 Xは、YがXを排除して本物件の売買をしたことを知り、購入申込書を作成した時点でX・Y間で本物件に係る媒介契約が成立しているとして、Yに媒介報酬111万円余の支払いを求め、Yを提訴しました。

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【解 説】

 裁判所は、次の通り判示し、XのYに対する請求をほぼ認容しました。

(1)Yは、X事務所を訪れ、内見後に購入申込書を作成・交付し、Xは同申込書をAにFAXし、翌日、A宛に持参している事実経緯に照らすと、Yの本物件購入の意思は確固たるものであったと言え、YはXに購入申込書を作成した時点で、Xに媒介行為を委託し、Xも受託したと認めるのが相当であり、媒介契約は成立したというべきである。

(2)Yは、国土交通省告示の媒介報酬規定が掲示されていたXの事務所で購入申込書を作成したことが認められ、XとYには、本物件の媒介成約時に、一定額の報酬を支払う明示黙示の合意があったと解するのが相当とは言えるが、確定的な媒介報酬の金額等について合意したとは認められない。

(3)Xが本物件の内見や売主との媒介手続に従事したこと、Yは媒介により本物件を購入した場合、3%程度の報酬を要することを認識していたこと、Yは購入申込書記載額と同額で購入したこと等を勘案すると、Xの媒介報酬は売買代金の3%程度の100万円が相当と言え、また、Yは、Xの媒介活動により本物件の売買契約が成立すべき状態にある中、Xに媒介手数料を省略したい旨を述べたことから、YはXへの媒介報酬支払いを免れるべく、Xの媒介による売買契約成立を故意に妨げたと言え、Xの請求は100万円の限度で理由がある(東京地裁 平成28年8月10日判決)。

【総 評】

 本件では、不動産会社の媒介行為や買主の認識等を総合勘案し、媒介報酬請求が認容されたが、そもそも宅建業法では、売買の媒介を依頼された際、媒介契約書の取交しを媒介会社に義務付けています。

 本件でも、Yから購入申込書を交付された際、Xが媒介契約の内容を説明し、媒介契約書を取り交わしていれば、不動産売買取引に疎い個人買主が、いわゆる抜き行為を行うことは避けられたと思われ、媒介契約の締結時、媒介契約書の取交しを怠らないよう留意することが必要と言えるでしょう。

at home TIME 2018/5月号掲載分より


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